[英語・外国語] 聴くだけで話せるようになる!ほんと?

こんにちは!

今回は「聴くだけで外国語は話せるようになるのか」についてSLAの視点から考えていきます。

インプット仮説(Input Hypothesis)

インプット仮説とはSLAの世界的に有名なKrashenという研究者が立てた仮説で、インプット(聴いたり読んだりした言語データ)を理解することが言語学習において必要十分条件であるという仮説です(Krashen, 1985など)。

十分と言っているのでそれ以外必要ないということです。つまり、読んだり聴いたりしてメッセージを理解するだけで言語を習得できるという仮説です。極端な仮説なのでもちろん批判も多いですが、インプットが言語学習において重要であることを否定する研究者はいません。

「聴くだけで話せるようになる」というのはこのインプット仮説を誇張した考え方だと思います。

それではインプットだけで言語習得は可能なのでしょうか?

アウトプット仮説(Output Hypothesis)

こちらは同じくSLAの研究者であるSwainが立てた仮説です(Swain, 1995など)。彼女はカナダのイマージョンプログラム(学校の授業を全て外国語で行うプログラム。例えば理科の授業をフランス語で行うなど。)で外国語を学んだ生徒を対象にした研究で、外国語を聴いたり読んだりして理解する能力はネイティブの同年代と同じくらいのレベルに達したが、話したり、書いたりするレベルはネイティブと比べ劣っていたと発表しています。このことから言語習得にはインプットだけではなく自分で話したり、書いたりする、いわゆるアウトプットも必要なのではないかという仮説が生まれました。

結局聴くだけで話せるようになるの?

それで、結局聴くだけで外国語を話せるようになるのでしょうか?

結論から言うと、聴くだけでは話せるようにはならないと僕は思っています。

リスニングとスピーキングのプロセスの違いからその理由を説明します。

リスニングとスピーキングの違い

そもそもリスニングをする時とスピーキングする時とでは脳で起こっているプロセスが異なります。

[英語・外国語] リスニングについて知っておくべき基礎知識

2018.02.16

こちらでリスニングのプロセスについては詳しく紹介していますが、簡単にここでも説明しますとリスニングの場合、①個々の音声の知覚②音声を意味(概念)に変換③コンテクストから意味の判断 というプロセスを瞬時に行ないます。

一方でスピーキングのプロセスというのは①言いたいこと(概念)を決める②概念を言語化する③言語化したものを口で発音する というプロセスを踏みます(Levelt, 1989)。

スピーキングの①のプロセスは言語に影響されません。ですから、母語であるか外国語であるかに関係なく、どちらかというとその概念を知っているかが重要です。知ってることについてはたくさん話せますが、知らないことについては日本語でも話せないですよね。外国語学習者として鍛えたいプロセスは②と③です。僕は特に②の言いたいことを言語化する プロセスが外国語学習において特に大事であるのにもかかわらず、ほとんどの学習者がこの練習をあまり行えていないと思っています(特に日本の英語教育で)。

余談ですが、ここで言う「概念を言語化する」というのは、日本語を介していません。日本語を介してしまうと、もう1ステッププロセスを増やし①概念を決める②概念を日本語化する③日本語化したものを外国語に訳す④口で発音する というプロセスになってしまいます。詳細は後日記事を書きますが、外国語でも日本語を介さずに理解・アウトプットすることは十分可能ですのでそれは忘れないでおいてください。

つまり、スピーキングの②・③のプロセスを鍛えない限り、いつまでたっても外国語を話せるようにはならないのです。それぞれのプロセスを見ていただいてわかるようにリスニングとスピーキングのプロセスは異なります。リスニングをたくさんして聞き取れるようになったとしても話せるようにはならないのです。

先程紹介したSwainの研究でも、やはりイマージョンプログラムとは言え、スピーキングにおける②と③のプロセスを鍛える機会が圧倒的に少なかったために被験者のスピーキング能力はあまり上がらなかったのではないかと思います。当たり前のことのようですが、やはり話せるようになるには話す練習が必要ということですね。

 

以上のことから、外国語を聴くだけでは話せるようにはなりません。というのが僕の意見です。

スピーキング関連の記事も書いているのでぜひ参考にしてみてください。

それでは!

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2018.03.17

参考文献

Krashen, S. (1985) The Input Hypothesis: Issues and Implications. Beverly Hills, CA: Laredo Publishing Company.

Levelt, W.J.M.(1989) Speaking. From Intention to Articulation. Cambridge, Mass.: The MIT Press

Swain, M. (1995) Three functions of output in second language learning. In Cook, G. and Seidelhofer, B. (Eds.) Principle and Practice in Applied Linguistics: Studies in Honor of H.G. Widdowson, pp. 125-144. Oxford: Oxford University Press.

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